拝啓 君へ
君と離れてもうずいぶん経ちました。今もあのときのまぶしい笑顔を思い出すけれど、君は今も元気ですか。
今も君との毎日を思い出します。何の心配もなく僕との未来を信じてくれていた君を守りきれなかった僕の無力さ。そして絶望。
それは今も僕の心の中で血を流しています。
君との出会いは運命。別れも運命なのでしょう。でも今でも君を守りたいと願う僕を君は多分笑うんだろうね。
君以外に僕は本当の笑顔も悲しみも見せず、ここまで歩いてきました。君の為だけに強くなると誓ったあの日から、僕は本当の自分を閉じ込めました。君を守るために強くなる。
君には笑って欲しい。君が歩く全ての道が幸せで満たされるように。そのために僕が血に染まることがあっても、それは僕が勝手にしたこと。君の為になら何をしても後悔はしない。それが君を守れなかった罪への贖罪です。
愛しています今も。そしてこれは僕の勝手な思い。この手紙は君に読まれることはないでしょう。違う道を選んだ時から、僕らは違う心を持ってしまった。
たとえ道が違うとしても、君を愛していることには変わりません。いつか二人で寄り添えたら。そして永遠の中の一瞬を僕自身に戻れたら。それが僕のたった一つの望みです。
敬具
立花月夜
「南極の海に南極ニンゲン(ヒトガタ)って言うのがいるんだって」
そんな話をつい先日聞いた。話してくれたのは、ネットで仲良くしている女の子だ。
「南極でクジラの研究をしているチームが最近出くわすらしいんだけど、めちゃくちゃ大きくて白くて透明なんだって」
「大きいの?どこにいるの?」
詳しく話を聞くとその南極ニンゲン(ヒトガタ)と言うのは、体長は数十メートルもあり、白色から透明のヒトガタの物体で、日本政府が行っている南極周辺海域の「調査捕鯨」で目撃されているというのだ。
それを彼女から聞いて一番最初に頭に浮かんだのは、アニメ『エヴァンゲリオン』で南極に現れたという『アダム』と言う存在のことだ。アダムは光の巨人の姿を取る。南極という接点もある。と南極ニンゲン(ヒトガタ)の話を聞いた方は、同じことを考えた人も多いと思う。
「それですごいのがその南極ニンゲン(ヒトガタ)は話しかけてくるの」
「どんなことを?」
「わかんないけど、とにかく話しかけて来るんだよ」
話かけられた人たちや南極ニンゲン(ヒトガタ)を見た人は、口を閉ざしてしまうので真相は不明だそうだ。
南極ニンゲン(ヒトガタ)は極寒の地に生きる第二の人類の姿なのか、誰かの頭脳から飛び出しネットという海で巨大成長した幻想なのか…。彼女は『本当のことなんだから!』と主張していたが。
光の巨人アダムが南極ニンゲン(ヒトガタ)の原型だったとしても、また本当に未知の極寒の地に第二の人類がいるとしても、クジラの群れとともに雄大な氷海を泳ぐ白く巨大なヒトガタの姿を思い浮かべると、恐ろしくも荘厳な気持ちになってしまう。
南極ニンゲン(ヒトガタ)はもしかしたら、こう話しかけてくるのかもしれない。
「人間は地球の支配者ではなく、住人の一人に過ぎない。私と一緒にこの南極の海を守って欲しい」とそんなことを考えてしまった。

